東京高等裁判所 昭和26年(ナ)46号 判決
原告 篠田宗一 外二十一名
被告 長野県選挙管理委員会
一、主 文
被告が昭和二十六年九月四日なした昭和二十六年四月二十三日執行の飯田市議会議員一般選挙における当選者全員の当選はこれを無効とするとの裁決はこれを取り消す。
訴訟費用は原告等及び被告の各自弁とする。
二、事 実
原告等代理人は、主文第一項同旨並びに訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として次の通り陳述した。原告等はいずれも昭和二十六年四月二十三日執行せられた飯田市議会議員選挙において当選人として決定せられた者であるが、落選候補者篠田清信、山田亮一、川合猪平、選挙人田口良三より被告に対し同選挙無効の訴願が提起せられたので、被告は審理の結果同年九月四日附で請求趣旨掲記のような裁決をなし、同日選告示第七十六号を以てこれを告示した。しかし右裁決は次の理由によつて取り消さるべきものである。すなわち右裁決において本件原告等の当選を無効とするに至つた理由はこれを要約すると、本選挙における不在者投票総数千二百四票のうち選挙人が現在する場所において投票する事由の投票は八百六十一票に上り、このうち三百十六票は公職選挙法の規定に違反した無効とすべき投票であり、またこの外右千二百四票の不在投票をした者のうち選挙当日選挙権のない者が(右無効なる三百十六票の投票者として数えられる者を除いて)八名あり、この八名の投票もまた無効たるべきであり、合わせて、いわゆる潜在無効投票が三百二十四票ある。右潜在無効票数を順次当選者の得票数から差し引いて、次点最高点数三百五十二票に比較すると、当選人三十名全部(別表大田中甲主以下嶽野重男まで)の各得票数がこれより少数となるから、当選の効力に影響を及ぼすものであるというにある。しかし被告の裁決の理由となつた潜在無効投票の数が、三百二十四票あつたとしても、これを開票区別に見れば第一開票区において百三十四票、第二開票区において百九十票となるから本件においては去る第十三国会における公職選挙法の改正により、本件裁決の結論は全面的に変更されざるを得ないものである。すなわち別表(い)欄掲記の本件選挙における原告等他各候補者の得票数を改正法第二百九条の二の規定によつて計算し直すと、選挙会が決定した第一開票区における各得票数は別表(ろ)欄第二開票区における各得票数は(は)欄、その合計は(に)欄、第一開票区の潜在無効票百三十四票を各候補者の得票数に按分して得た数は(ほ)欄、第二開票区の潜在無効票百九十票を各候補者に按分した得た数は(へ)欄、公職選挙法第二百九条の二の規定により計算した各得票数は第一開票区の分は(と)欄、第二開票区の分は(ち)欄、その合計は(り)欄、その得票順位は(ぬ)欄に掲記の通りである。従つて本選挙においては、選挙会において当選人と定められた原告等他三十名は、右法第二百九条の二による計算を行つて得票数を修正した場合にもやはり議員定数にあたる第三十位までを占めることは計数上明瞭であり、而も本選挙における法定得票数は選挙会において有効投票として扱われた第一開票区八千四百六十二票、第二開票区九千四百八十六票合計一万七千九百五十票から前掲潛在無効票数三百二十四票を差し引いた一万七千六百二十六票を議員定数三十で除した数の四分の一なる百四十六票であつて、右上位三十名の得票数(修正後)がこれを超えていることは明らかである。従つて本件選挙会において当選人と定められた原告等他三十名の当選は有効であり、これと異なる立場においてなされた原裁決はこれを取り消さるべきである。
被告代理人は、原告等の請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め、その答弁として、原告等がいずれも昭和二十六年四月二十三日執行せられた飯田市議会議員選挙において当選人として決定せられた者であること、落選候補者篠田清信、山田亮一、川合猪平、選挙人田口良三より被告に対し同選挙無効の訴願が提起せられたこと、右訴願に対し原告等主張の如き内容の裁決がなされ、昭和二十六年九月四日選告示第七十六号を以て告示されたことはいずれも認める。その余の原告等主張事実については争わないと述べた。(各証拠省略)
三、理 由
原告等がいずれも昭和二十六年四月二十三日執行せられた飯田市議会議員選挙において当選人として決定せられた者であること、落選候補者篠田清信、山田亮一、川合猪平、選挙人田口良三より被告に対し、同選挙無効の訴願が提起せられたこと、右訴願に対し被告は審理の結果同年九月四日附で「昭和二十六年四月二十三日執行の飯田市議会議員一般選挙における当選者全員の当選はこれを無効とする。」との裁決をなし、同日その旨の告示をなしたこと及び右裁決において本件原告等の当選を無効とするに至つた理由は、要するに原告等主張の如く本件選挙における不在者投票総数千二百四票のうち、いわゆる潛在無効投票が三百二十四票あり、これを順次当選者の得票数から差し引いて、次点最高点数三百五十二票に比較すると、当選人三十名全部の各得票数がこれより少数となるから、当選の効力に影響を及ばすものであるというにあることは、いずれも当事者間に争いがない。
しかるところ、その後第十三国会において公職選挙法が改正せられ、当選の効力に関する争訟における潛在無効投票につき同法第二百九条の二として「当選の効力に関する異議の申立、訴願の提起又は訴訟の提起があつた場合において選挙の当日選挙権を有しない者の投票その他本来無効なるべき投票であつて、その無効原因が表面にあらわれない投票で有効投票に算入されたことが推定され、且つ、その帰属が不明な投票があることが判明したときは、当該選挙管理委員会又は裁判所は第九十五条(当選人)の規定の適用に関する各候補者の有効投票の計算については、その開票区ごとに各候補者の得票数から当該無効投票数を各候補者の得票数に応じて按分して得た数をそれぞれ差し引くものとする。」との規定がなされ、本件訴訟についてもこれが適用を受けることとなつたので、原告等他三十名の当選者の得票数も右規定によつてこれが修正を免れざるものである。
ところで本件選挙におけるいわゆる潛在無効投票の数が被告の裁決の理由となつた数の三百二十四票あつたものとしても、その内訳が第一開票区は百三十四票、第二開票区は百九十票であることも当事者間に争いなきところであるから、本件選挙における候補者全員の得票数を右改正法の第二百九条の二の規定によつて計算し直すと、全候補者は別表(い)欄、選挙会が決定した第一開票区における各候補者の各得票数は(ろ)欄、第二開票区における同上各得票数は(は)欄、その合計は(に)欄に掲記の通りであることは被告の争わざるところであり、第一開票区の潛在無効票百三十四票を各候補者の得票数に応じて按分して得た数は(ほ)欄、第二開票区の潛在無効票百九十票を各候補者の得票数に応じて按分して得た数は(へ)欄、公職選挙法第二百九条の二の規定により計算した各得票数は第一開票区の分は(と)欄、第二開票区の分は(ち)欄、その合計は(り)欄に記載の通りなることは計数上明らかである。従つて本件選挙において、選挙会において当選人と定められた原告等他三十名は右法第二百九条の二の規定による計算を行つて修正した場合にも、やはり議員定数にあたる第三十位までを占めることとなる。而も本件選挙における法定得票数は選挙会において、有効投票として扱われた第一開票区八千四百六十二票、第二開票区九千四百八十六票合計一万七千九百五十票(この事実は成立に争いなき甲第三号証により明らかである)から、前掲潛在無効票数三百二十四票を差し引いた一万七千六百二十六票を議員定数三十で除した数の四分の一なる百四十六票であつて、右上位三十名の得票数がこれを超えていることは明らかである。従つて本件選挙会において当選人と定められた原告等他三十名の当選の効力には何等影響を及ぼさないこととなるのでこれと異なる立場においてなされた被告の前記裁決はこの点において維持し難きものであるからこれを取消すべきである。
よつて本訴請求はこれを認容すべきものとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条、第九十条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 大江保直 梅原松次郎 猪俣幸一)
(別表省略)